今回は、
「タダ働き」
から
「喧嘩別れ」
に至る、生々しい
「事例」
をご紹介しましょう。
これは、あなたが明日にも遭遇するかもしれない
「線引きの失敗」
の教訓であり、
「ナメられたら、ビジネスは終わり」
という鉄則を再認識するための、現実の実務です。
1 事例の核心:タダ飯を食わせる「善意の沼」
あるプロジェクトについて、情報提供やノウハウの提供を求められ、私の事務所は、知見、ノウハウ、業界キーマンの紹介まで、惜しみなく提供しました。
実務の現場では、こうしたことは案外よくあるのです。
プロジェクトの初期段階では、どの方向に進むか、どの価値観を優先すべきかといった
「ビジネスの舵取り」
が、まだ定まっていないことが少なくありません。
そうなると、役割も契約も曖昧なまま、時間だけが過ぎていきます。
要するに、プロジェクトの初期段階における
「先行投資」
と称する
「無償の協力」
を提供しました。
なぜそんなことをするのか?
「義理」
と
「将来の仕事」
への淡い期待、です。
実務家なら誰でも一度は通る道です。
そして、
「先行投資」
という名の、
「善意の沼」
に、知らぬ間に沈んでいくわけです。
で、どうなったか?
以下、ご覧ください。
私が依頼者に送ったメールの
「トーン」
です。
<畑中鐵丸から依頼者への「絶縁状」(抜粋)>
大変言い難いことを申し上げるようですが、当弁護士法人としては、関与が予定されていないのでしょうか?
業界キーマンを紹介し、各種相談に応じ、情報・知見・ノウハウを提供し、挙句、仕事にならないのであれば、これ以上のご協力は困難です。
(中略)
大変申し訳ありませんが、本件メールのグループアカウントから外して下さい。
案件の成功をお祈り申し上げております。
まさに
「ブチ切れ寸前」
の、ギリギリのラインで送られた、
「絶縁状」
です。
(1)当方が提供したもの
・時間(相談対応)
・ノウハウ(情報・知見・提供)
・カネで買えない人脈(業界キーマンの紹介)
(2)得られたリターン
・ゼロ
・契約の気配すらなし
これはもう、
「善意の投資」
ではなく、
「ただの搾取」
でしょう。
彼らは、当方のプロとしての価値、特に「人脈」という無形資産を「タダ同然」と判断したのです。
2 畑中鐵丸流「トドメ」の打ち方:喧嘩別れのアート
さて、こうした状況に陥ったとき、あなたならどうしますか?
「なんとか契約に繋げよう」
と未練がましく縋りつくのは、二流のやることです。
一流の実務家は、「損切り」
と
「プロとしての尊厳の保持」
を最優先します。
先のメールには、
「トドメの一文」
があります。
「◆◆弁護士は非常に有能な弁護士とおもいますし、彼に任せれば大丈夫でしょう」
これは、皮肉です。
静かに突き放す、最大限の軽蔑を込めた
「トドメの一言」
です。
そして、極めつけが、
「本件メールのグループアカウントから外して下さい」
です。
これは、
・あなたの案件には、もう一切興味がない
・これ以上、無償の情報提供源にはならない
・一切の「未来」を断ち切る
という、「関係性の即時凍結」を意味します。
このスピード感と非情さこそが、ナメられないための極意なのです。
3 【教訓】「タダ乗り」客を許すな:プロの線引き術
この事例から得られる実務家としての教訓は、3つあります。
(1)善意は「期限」と「目標」を明確に
「〇月〇日までに契約の確約がなければ、サポートは終了する」
と、水面下でも明確に伝えておくべきです。
曖昧な期待は、無限の搾取を招きます。
(2)「キーマン紹介」は「契約締結後」が鉄則
「人脈」
は、プロの実務家が持つ最大の資産です。
これを無償で出すのは、軍資金を敵に渡すに等しい愚行です。
「キーマン紹介は、着手金の入金後」
これが、鉄の掟です。
(3)最終手段の「尖った絶縁」を恐れるな
ビジネスにおいて、
「嫌われる勇気」
は
「報酬を得る能力」
に直結しています。
タダ働きを当然のように求めてくる相手は、あなたを
「便利な無料相談員」
としか見ていません。
ナメられたら即座に切る。
あなたの疲弊と事務所の赤字を招く前に、関係を断ち切るのがプロの責務です。
4 別解:法的アプローチや戦略的「利用」もある
今回の私の行動は
「プロとしての尊厳の保持と迅速な損切り」
という点で最適解の1つですが、別のアプローチを取るプロもいます。
(1)「損害賠償」を請求する(法的に勝ってもビジネスで負ける罠)
・提供した人脈・情報を「無形資産」と捉え、
・相手の「誠実交渉義務違反」として、
・コンサル相当のフィーや損害を請求する。
→ 畑中鐵丸の実務的判断:
訴訟で勝てても、コストと時間をかけたら負け。
“係争するより、即手を引いて別案件に全振りする”のが私のスタイルです。
(2)アカウントに残り、相手を監視する
・情報は一切与えず、相手の動きだけを観察する「情報トラップ」に使う。
・相手の進捗や動向をモニターし、将来の交渉材料にする。
→畑中鐵丸の評価:
これは陰湿すぎて、私のスタイルではありません。
私の
「関係性の即時凍結」
は、
「その案件の成功失敗など、もはやどうでもいい」
という、案件自体への興味の喪失と、
「次の有望な案件にリソースを全振りする」
という潔いビジネス判断に基づいています。
5 あなたなら、どちらを選びますか?
・裁判で白黒をつけるか
・陰で見張るか
・それとも、即座に切って、前に進むか
今回は、
「このような事例もある」
ということで、明日からのビジネス判断に活かしていただきたいと思い、紹介しました。
さて、あなたは、どれを選択しますか?
著:畑中鐵丸