00239_“無料奉仕”の戦場に立たされたときの線の引き方_「恩義」と「タダ働き」を混同してはいけない

「タダ働き」
は善意ではなく、慢性的な搾取です。

プロが生き残るためには、どこで線を引くか──ここに尽きます。

「ちょっとだけだから」
「お願いだから」
「君しかいないんだ」

この3つの呪文が揃ったとき、あなたはすでに“無料奉仕”の戦場に立たされています。

法務の現場でも、こうした
「暗黙のタダ働き」
は少なくありません。

報酬の話を切り出す前に、次のタスクが当然のように降ってくる。

「善意」
の名のもとに、時間と労力が静かに溶かされていくのです。

もちろん、著者も義理人情が嫌いではありません。

「報酬よりも信頼」
だと思う場面だって、現実にはあります。

ただし、その線を引くのは“こちら”なのです。

実際、こういう場面があります。

「緊急だから」
と頼まれ、休日返上で徹夜してリリース文案を作成した。

ところが翌日には、
「もうその問題は片付いた」
と言わんばかりの顔。

支払いの話は立ち消え、感謝どころか存在すらなかったことにされる。

これが現場のリアルです。

「知り合いだから、タダでやってくれると思っていた」
「君と僕のなかじゃないか。いつも助けてくれるじゃないか」
「今回も頼むよ」

こうした言葉を“当然の権利”として口にする相手に、無償で助力を続けるのは、自殺行為にほかなりません。

報酬をめぐる話は、信頼関係の問題ではなく、線の引き方の問題です。

すなわち、約束をどうするか、筋をどう通すか、その一線の話です。

たとえば、無償対応を一度でも受け入れれば──
次の相談もタダになる。

他の案件にも波及する。

さらには、その人の周囲でも
「無料対応が前提」
になる。

そうした“雪だるま式の負担”が、音もなく膨らんでいくのです。

では、どうすればいいか。

あえてはっきりと言うことです。

「お力にはなりますが、まず条件を整えましょう」
「無償では動けません。必要なら別の専門家をご紹介します」
「これまでの無償対応は例外であり、今後は契約ベースです」

一見、冷たく聞こえるかもしれません。

しかし、こうした線引きこそが“プロフェッショナル”の信頼を守るのです。

これは、弁護士だけの話ではありません。

士業だけでもありません。

経営者、サラリーマン、コンサルタント──誰もが日常で直面する話です。

「ちょっとだけだから」
「お願いだから」
「君しかいないんだ」
という圧力を受け流すことができるか。

ここに、あなたの職業人生の質がかかっているのです。

著:畑中鐵丸