「タダ働き」
は善意ではなく、慢性的な搾取です。
プロが生き残るためには、どこで線を引くか──ここに尽きます。
「ちょっとだけだから」
「お願いだから」
「君しかいないんだ」
この3つの呪文が揃ったとき、あなたはすでに“無料奉仕”の戦場に立たされています。
法務の現場でも、こうした
「暗黙のタダ働き」
は少なくありません。
報酬の話を切り出す前に、次のタスクが当然のように降ってくる。
「善意」
の名のもとに、時間と労力が静かに溶かされていくのです。
もちろん、著者も義理人情が嫌いではありません。
「報酬よりも信頼」
だと思う場面だって、現実にはあります。
ただし、その線を引くのは“こちら”なのです。
実際、こういう場面があります。
「緊急だから」
と頼まれ、休日返上で徹夜してリリース文案を作成した。
ところが翌日には、
「もうその問題は片付いた」
と言わんばかりの顔。
支払いの話は立ち消え、感謝どころか存在すらなかったことにされる。
これが現場のリアルです。
「知り合いだから、タダでやってくれると思っていた」
「君と僕のなかじゃないか。いつも助けてくれるじゃないか」
「今回も頼むよ」
こうした言葉を“当然の権利”として口にする相手に、無償で助力を続けるのは、自殺行為にほかなりません。
報酬をめぐる話は、信頼関係の問題ではなく、線の引き方の問題です。
すなわち、約束をどうするか、筋をどう通すか、その一線の話です。
たとえば、無償対応を一度でも受け入れれば──
次の相談もタダになる。
他の案件にも波及する。
さらには、その人の周囲でも
「無料対応が前提」
になる。
そうした“雪だるま式の負担”が、音もなく膨らんでいくのです。
では、どうすればいいか。
あえてはっきりと言うことです。
「お力にはなりますが、まず条件を整えましょう」
「無償では動けません。必要なら別の専門家をご紹介します」
「これまでの無償対応は例外であり、今後は契約ベースです」
一見、冷たく聞こえるかもしれません。
しかし、こうした線引きこそが“プロフェッショナル”の信頼を守るのです。
これは、弁護士だけの話ではありません。
士業だけでもありません。
経営者、サラリーマン、コンサルタント──誰もが日常で直面する話です。
「ちょっとだけだから」
「お願いだから」
「君しかいないんだ」
という圧力を受け流すことができるか。
ここに、あなたの職業人生の質がかかっているのです。
著:畑中鐵丸