00235_知ってるだけでは足りない_「知ってる人」がリスクになる

「……いや、それ、もう知ってるから」
そんな顔をした人が、会議の中にひとりは必ずいます。
すべてをわかっているつもりの表情です。

新しい提案にも、
「うーん、できますかねえ」
「まぁ、だいたい予想はつきますよね」
と、どこか冷ややかに反応します。

何かを指摘されても、先回りして反論するような態度を見せます。

こうした“わかってる人”が、じつは一番やっかいなのです。

なぜでしょうか。

一見すると、非常に優秀に見えます。

しかし、動きません。

伝えませんし、巻き込みません。

もちろん、仕掛けもしません。

要するに、組織の中で、変化を嫌悪し、“何も変えない存在”なのです。

それどころか、結果として、組織の風通しを悪くし、連携を妨げ、やる気を失わせ、周囲を萎縮させてしまいます。

気がつけば、“足を引っぱる存在”になっていて、いつのまにか
「邪魔な存在」
として扱われてしまう。

それは、皮肉な現実です。

何も言わない人が、最大の“変化阻害要因” 

知っている人は、知らず知らずのうちに心のどこかで、
「こんなこと、いまさら説明しなくてもいいだろう」
「誰かがやってくれるだろう」
「言わなくても、伝わるだろう」
「誰かが気づいて軌道修正してくれるだろう」
と考えているのかもしれません。

しかし、知識というのは、
「共有」され、
「伝達」され、
「仕組み」に落とし込まれて、
はじめて組織の中で意味を持ちます。

自分の中にだけある知識は、ただの独りよがりの宝箱にすぎません。

さらに悪いことに、こうした“わかってる人”ほど、
「失敗しないこと」
を最優先します。

だからこそ、リスクを避けようとして沈黙するのです。

黙っているだけの人は、中立でも安全でもありません。

むしろ、何も言わないことで、組織のリズムを壊し、変化の芽を摘んでしまいます。

結局のところ、組織にとっては、
「動かないブレーキ」
となってしまうのです。 

「知識はエンジン。動かすのに必要な燃料とドライバーとは」 

知識は、それ自体では力ではありません。

知識を「伝え」、
他者に「わかる」ように説明し、
動かす人を「巻き込む」ことで、
ようやく“力”として機能します。

いわば、知識は
「エンジン」
でしかなく、それを動かすためには
「燃料」

「ドライバー」
が必要なのです。

この
「燃料」
にあたるのが、発信力と巻き込み力です。

そして
「ドライバー」
にあたるのは、相手の動きを読む力や、必要なタイミングで仕掛ける感覚です。

たとえば、法務部門に優秀な専門家がいたとしても、その人が
「これはリスクです」
と繰り返すだけでは、現場には届きません。

なぜなら、現場の人が知りたいのは
「どうすればリスクを避けられるのか」
であり、
「どのタイミングで」
「どんなステップを踏めば安全か」
という、具体的な設計図だからです。

つまり、
「正しさ」
よりも、
「翻訳と設計」
の力が問われるのです。

知識を使って、現場にとって意味のある形にミエル化し、現実的な行動のカタチに落とし込む。

動かせる人は、“伝えるだけ”では終わりません。

現場に合わせて翻訳し、
「動けるカタチ」
に仕立て直します。

人は正しさでは動かない。人を動かすには仕掛けがいる 

「正しいこと」
は、ときとして、反感を買います。

特に、相手がその“正しさ”にまだ気づいていないときは、なおさらです。

だからこそ、動かせる人は、正しさを押しつけたりしません。

相手に「気づかせ」、
自然と「動きたくなる」ように
仕掛けていくのです。

たとえば、次のような手法があります。

・あえて自分の意見を一歩引いた表現で語る
・数字や具体例を見せて、相手に納得してもらう
・他部署の“声”を先に紹介し、自分の意見に権威性を持たせる
・最初は小さな変化を提案し、相手の抵抗感をやわらげる

つまり、あの手、この手、奥の手を総動員して、相手の頭と心を動かしていくのです。

この
「一歩引いた仕掛け」
ができる人こそ、本当に組織を変える人です。

知ってる人”から“動かせる人”へ

これからのビジネスパーソンに求められるのは、
「知っている人」
ではなく、
「動かせる人」
です。

知っていることを、言語化し、翻訳し、伝え、巻き込み、仕掛け、動かす。

そのプロセスを経てはじめて、知識は価値になります。
そして、その
「動かす力」こそが、
「影響力」となり、
「信用力」となり、
最終的にキャリアを押し上げていくのです。

「知っている」だけでは、通用しません。

その一歩は、自分の知識を
「どう伝えるか」、
そして、誰を巻き込み、誰と連携すれば現場が動くのかを考えるところから始まります。

知識と発信力。
知識と連携力。
知識と仕掛け力。

この掛け算ができる人こそ、これからの組織を変え、未来を動かしていくのです。

著:畑中鐵丸