離婚とは、単なる
「別れ」
ではありません。
それは、感情の綱引きであり、経済の駆け引きであり、そして何より、
「戦略」
がものを言う
「家庭内戦争」
です。
「カネは払いたくない、けれども離婚はしたい」
「生活費は出してほしい、でも別れたくはない」
このように、
「それぞれに、それぞれの理屈があり、それぞれの事情がある」
構図のなかで、利害が複雑に絡み合い、どちらの言い分も一歩も引かない状況では、冷静に戦略と戦術を組み立てる力が求められます。
事例から見る家庭内のリアル
たとえば、ある事例。
夫は
「離婚する」
「連れ子とも離縁する」
と言い張りながら、
「お金は一銭たりとも払わない」
と主張します。
妻の側は
「愛しているから」
ではなく、
「生活費が必要だから別れられない」
と返してきます。
感情のやりとりに見えて、実はそこにあるのは生活の現実です。
もっと言えば、経済のリアルです。
家庭の構図は、企業の紛争構造と同じ
そこには感情よりも、生活の現実が色濃く見えてきます。
家庭内のこの構図――
ビジネスに置き換えれば、
「解約したい取引先が、過去の請求には応じない」
と言っているようなものです。
相手の言い分をそのまま受け入れるのではなく、まず全体を
「ミエル化」
してみることが大切です。
そのうえで、どう動くかを定めていく。
それが、戦略というものなのです。
戦略の出発点は「環境整理」
まず、
「環境整理」
をすることです。
どんな利害が交差しているのか。
どんな法的・社会的背景があるのか。
そこを丁寧に見極めることが、出発点になります。
そのうえで、
「ゴールは何か」
をはっきりさせておく必要があります。
・金銭なのか
・居場所なのか
・時間なのか
・感情なのか
――それによって、採るべき
「戦略」
が変わってくるのです。
「悲劇のヒロイン戦術」という技術
たとえば、妻側が、離婚を拒否してでも生活費を得たいのであれば、
「悲劇のヒロイン戦術」
が有効かもしれません。
・相手がウソをついているなら、それを暴く
・真実を隠しているなら、それをあぶり出す
・ときに、感情の表現を装いながら、冷静に「ATMはまだ機能している」と知らせる
これらの技術は、実は、企業の訴訟戦略とまったく同じ構造をしています。
家庭の問題を戦略的に語ることに、違和感を持つ人もいるでしょう。
しかしながら、感情だけで戦えるほど、現代の家族関係は単純ではないのです。
争いは形を変えながら続きます。
場合によっては、年単位の時間を費消することすらあるのです。
そのたびに、何を守り、何を捨て、何を得るかを考え直さなくてはなりません。
「家族」
という最小単位の社会に、
「離婚問題」
が浮上したとき、私たちは、戦略と戦術の使い手でなければならないのかもしれません。
著:畑中鐵丸