00199_現代のBtoB営業1_20150620

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
は、最終項目の
「営業」
というお仕事のお話に入っております。

前回、コンシューマー向けの営業活動(Business to Consumer、BtoCあるいはB2C営業)についての仕事のお作法についてお話をしました。

今回は、BtoBあるいはB2Bと呼ばれる営業領域、すなわち、法人向け営業や企業間取引営業(Business to Business)の現代型仕事の基本を解説していきます。

(7)現代のBtoB営業その1・業界“協調”時代から、業界“競争”時代へ

護送船団行政や業界癒着構造の終焉の動きに併せて、低成長時代の到来、これによるパイの奪い合い、さらには構造的不況による業界間(内)競争や業界再編の動きが加わりました。

このようにして、日本の産業界は業界“協調”時代から、業界“競争”時代にシフトしていくことになりました。

かつては
「健全な経済発展のためには必要なもの」
という論調まであった談合(談合の当事者は、「談合」という言葉を忌避し、「業界協調」という言葉を使われるようです。しかし、「便所」を「お手洗い」「Rest Room」と言い換えたところで、そこで行われる行為が上品でエレガントなものに変わるわけではないのと同様、言葉を変えたからといって、実体としての違法性が払拭されるわけではありません)ですが、リーニエンシーという
「密告奨励制度」
まで整備され、カルテルや談合は、法的に徹底的に排除される時代になりました。

このような時代の変化により、企業は
「仁義や友情を欠いても、非情なまでに能率競争(品質と価格の競争)を徹底しないと生き残れない」
という状況に直面するようになりました。

このことは、
「古くからの友人関係をビジネスに優先させる会社は生き残れない」
ということを意味します。

また、環境が激変する時代においては、企業は、生き残りのための変革を行い、環境適応しなければなりません。

変革をして環境適応する際には、必ず、新しい事業を興し、新しい市場に参入し、新しい関係構築がついて参ります。

逆に考えますと、会社の取引相手が古くからの会社に固定化されており、長期間変わり映えしない、という状況は、新しい人間関係や商流が形成されていないことの裏返しといえます。

BtoB営業を展開している企業で、古くからの取引先と十年一日のごとき取引を繰り返しているというところは、よほどのブランドやコアコンピタンス(絶対的差別化要因)でももっていない限り、生き残りが厳しいと言えます。

(8)現代のBtoB営業その2・一社依存取引の危険性

中小企業などで、
「ウチは一部上場企業の□□社が上得意だ」
「当社は世界展開している○○社の取引口座を持っている」
「わが社は、△△社の系列だ」
などと自慢するところがあります。

いずれも、大きな会社が主要取引先であり、
「よらば大樹の蔭」
という諺のとおり、
「そこに依存している限り、我々も倒れないから安心できる、ということを自慢したい」
ということだと思います。

しかしながら、これまで
「世界の工場」
として世界中の製造加工を一手に担い我が世の春を謳歌してきた日本は、冷戦の終結とともに、中国や旧東欧といった、考えられないような低コストで製造加工を請け負う新興勢力との競争にさらされるようになりました、ということは何度か申し上げました。

後発組は、新しい技術を既存のものとして取り入れ、設備も全面的に更新できますし、かつて日本で行ってきた
「傾斜生産方式」
などのように国を挙げての保護支援を受けています。

このような環境の変化を受けて、日本の多くの企業は、部品や関連製品の調達コストの合理化を常に検討しています。

取引先に対してコストを下げる圧力を強めるほか、調達先自体を多様化し、互いに競争させるような施策を取り始めています。

このような状況下においては、
「取引先が大手一社」
ということは、将来の安全を保障するものではなく、逆に、
「その大手に切られた場合、たちまち経営不安に陥る」
という意味で、きわめて危険な状況と評価できるのです。

下請けや系列の立場でありながら、生き残りを真剣に考えている企業は、このような変化を敏感に感じ取り、新たな仕入れ先を開拓したり、培った技術でまったく新しい製品を作る可能性を検討し始めています。

逆に、こういう状況下で
「取引先が大手だから安泰」
などと考える企業は、認識不足が甚だしいというほかなく、こういうおめでたい企業の将来は芳しいとはいえません。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.094、「ポリスマガジン」誌、2015年6月号(2015年5月20日発売)