00183_チエのマネジメント(3)_20140220

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「チエ」
すなわち、情報、技術、ブランドといったソフト資産全般の経営資源マネジメント(知的財産マネジメント)」の3回目です。

6 チエのマネジメント(知的財産マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)「知財」の扱われ方

前回、
「知的財産権のダークサイド」
とも言うべき、産業技術や文化発展を阻害するようなマイナス面をご紹介するとともに、知財管理の仕事をするビジネスマンや一部弁護士に、政府の
「知的財産権を積極的に保護しますよ」
というポーズを真に受け、上記マイナス面を無視し、やたらと知的財産権をもてはやす風潮、
「知財バブル」現象
が蔓延した、というお話をさせていただきました。

今回は
「知財を実際に最終的に取り仕切る特許庁や裁判所」
において、実際、知財がどのような形で取り扱われているか、ということを述べて参ります

具体例として、知財の代表選手である特許の場合を考えてみます。

特許権というと、
「日本の特許出願件数40万件!」
などという報道があったり、また、各種工業商品に
「PAT.P(Patent Pending、特許出願中の意味)」
の表記がみられるなど、巷に特許は溢れ返っており、また、前回お話ししたように、政府が、2002年12月4日に、
「知的財産の創造、保護及び活用に関する施策を推進すること」
を目的とする知的財産基本法を作り、知的財産権保護を政策として奨励していることで、知財バブル現象に浮かれ、踊り狂う
「知財マンセー」
の方も多くいるため、一般には、発明が完成し、これを特許庁に持ち込めば、両手を挙げて歓迎され、すぐにでも特許権がもらえそう、とイメージを持たれる方も少なからずいらっしゃるものと推測されます。

しかしながら、現実には、特許権という権利が成立するためには、相当高いハードルを乗り越える必要があります。

まず、
「発明」

「特許権という法律上の権利」
に変化させるためには、出願という手続きが必要です。

例えを使って説明しますと、
「発明」

「東大入学を目指す受験生」、
「特許権という法律上の権利」

「東大に合格して、晴れて東大入学を果たした東大生」
とイメージしてください。

東大に憧れ、東大入学を目指す者は多いですが、目指した人間全員が入学できるわけではなく、実際東大に入学して東大生となれる人間はごくわずかです。

とはいえ、入るのが難しいからといって、
「目指してはいけない」、
「受験するのは許さん」
ということまでは言われませんし、門戸は広く開放されています。

どんなに勉強できない人間であっても、東大を受験する権利までは否定されませんし、少なくとも、
「オレは東大を目指しているんだ」
ということを吹聴したり、自慢して威張る自由は保障されています(そういう吹聴や自慢は自由ですが、「自慢や吹聴は合格してからにしろ」というツッコミが入り、却ってバカにされる危険はあります)。

この
「発明」
という受験生が、
「特許権」
という東大合格の栄誉を得るため、最初に行うのが、
「出願」
すなわち、願書提出行為です。

東大がどんなに勉強できない人間にも受験の機会を保障しているのと同様、特許手続きについても、どんなに下らない発明や、およそ特許が成立しないような思いつきであっても、
「出願」
自体はできます。

すなわち、発明や思いつきの内容や自分として要求する権利の内容を文書や図面で記載し、受験料とも言うべき出願手数料を支払えれば、原則として、どんなものでも出願可能です。

そして、東大に願書を提出した浪人生は、実際合格するまでタダの浪人生ですが、特許の世界では、出願しただけの発明に対して、特殊な称号を付与してくれます。

これが、
「特許出願中」
と言われるものであり、平たく言えば、
「将来、ひょっとしたら、特許権になるかもしれないかもしんない権利だぞ」
という称号です。

そして、このような状態にある権利は、先ほど述べたとおり、
「PAT.P(Patent Pending、特許出願中の意味)」
としてエラそうに表示しています。

「PAT.P(Patent Pending、特許出願中の意味)」
といえば、何やら仰々しくて相応の権利がありそうなことを示していると勘違いされますが、言ってみれば、浪人生が
「おれは東大に願書を出したぞ」
と威張っているのと同様、よく考えると、あまりたいした話ではありません。

ここで紙面の限界が来ましたので、今回はこのあたりとさせていただき、次回も引き続き、特許権の内容に関するお話をさせていただきます。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.078、「ポリスマガジン」誌、2014年2月号(2014年1月20日発売)