連載シリーズ
「仕事のお作法」
の
「お仕事・各論編」
として、ガバナンス、ヒト、モノと続き、今回から、
「カネ」
という経営資源のマネジメント(ファイナンスマネジメント)についてお話をいたします。
5 カネのマネジメント(ファイナンス・マネジメント)に関わるお仕事の作法
(1)企業の経営資源としてのカネの重要性
企業の運営・存続にとって最も貴重な経営資源は
「カネ」
といえます。
かのホリエモンは、
「カネさえあれば買えないものはない。女の心もカネで買える」
と言って物議をかもしましたが、表現の品位は別として、これは核心をついた発言です。
「カネ」
さえあれば、ヒト、モノ、チエその他の経営資源はいくらでも調達できます。
さらに言えば、M&Aという手法を使えば、
「カネ」
さえあれば企業まるごとを買うことだって可能です。
ヒトやモノやチエがなかったからといってそれだけで倒産する会社はありませんが、カネがなければ会社はたちまち倒産します。
その意味で、カネは、企業経営に欠くことのできない経営資源と言えます。
(2)企業経営における「カネ」の意味
企業活動において
「カネ」
を調達したり運用したりといったビジネス活動をファイナンスあるいはファイナンスマネジメントと言ったりします。
カネに関わる仕事は、単純に金に関する管理だけにとどまりません。
株式・社債・リース等を含めた企業の資金調達・資金運用といった企業の信用創造・信用管理等を含め、仕事として大きな広がりをもちます。
また、
「カネ」
あるいは
「カネ」
に時間的要素を加えた
「信用」
といったものは、その価値を極限にまで抽象化しています。
このため、
「カネ」
や信用の取引・管理・運用は、
「ヒト」
や
「モノ」
といった経営資源の場合に比べて、技術的色彩が強くその運用は複雑で困難なものとなっており、これに比例してビジネスの活動としての管理の重要性は増します。
ここでは、企業の資金調達(コーポレート・ファイナンス)等を中心に、
「カネ」
や
「信用」
に関する企業活動と、これを安全かつ戦略的に実現するために展開されるための仕事のポイントを述べていきたいと思います。
(3)返さなくてはいけないカネと返さなくてもいいカネ
企業はその活動のための資金を様々な調達先から手に入れます。
企業の資金調達方法をかなり大雑把に分けると、
「調達した後、返さなくてはいけないお金」
と
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
の2種類に分けられます。
こういう言い方をすると、この世知辛い世の中で
「返さなくてもいいお金」
なんていう代物なんてあるわけないだろ、とツッコミが返ってきそうです。
実はそういう変わったお金があるのです。
皆さんのよく知っている
「株式」
による資金調達というのが、
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
の調達を意味します。
時折、経済の仕組みをよくご存知ない専業主婦の方が、
「上場確実と言われて、未公開株を買ったら、上場する気配が全くない。あのカネを返して」
とおっしゃる光景を目にすることがあります。
無論、専業主婦の方にその筋の未公開株式を売りつける側の神経もどうかとしていますが、
「株として投資をしたカネを返せ」
という方もかなりおかしいです。
先ほども申し上げたとおり、企業に対する貸付や社債であれば、
「貸したカネを返せ」
ということは問題ありませんが、株式というのは
「一度投資したら、会社は株主に返さなくていい」
という前提でスポンサー付与される権利ですから
「株式として投資したカネを返せ」
という言い方自体、
「自分は会社制度を知らないバカである」
と言っているようなもので、発言としては相当イタいです。
では、どうして、株式なんてものがあるのか、
「一度調達してしまったら、スポンサーに返さなくてもいいお金」
なんてそんなアホな話があるか、一体全体どういうことやねん、という疑問が沸き起こると思いますが、紙面も尽きて来ましたので、次回、株式という仕組みについて詳しくお話させていただきます。
著:畑中鐵丸
初出:『筆鋒鋭利』No.070、「ポリスマガジン」誌、2013年6月号(2013年5月20日発売)