00168_モノのマネジメント(4)_20121120

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
についてお話しておりますが、今回は、現場や製造委託先の管理のあり方について述べてみたいと思います。

4 モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)現場や製造委託先管理のあり方について

ア モノ作りに関するトラブルの増加傾向

自動車や温風機の欠陥隠蔽問題、食品に関わる原産地表示や賞味期限偽装の問題や廃棄物処理や環境汚染問題等、近時、製造現場でのトラブルが頻出しています。

「モノ」
の中でも、消費者の口に届き、人の健康や生命を奪う結果を招来しかねない食品製造に関しては、表示偽装事件が相次いでいます。農林水産省や都道府県が2008年にJAS法に基づいて行った改善指示件数は、前年より34件増加し、合計118件となっていますし、不正競争防止法違反により、逮捕や家宅捜索、さらには有罪判決を受けるケースも増加の一途を辿っています。

また、公益通報者保護法の施行やネット掲示板の普及等の環境の変化もあり、内部告発が一般化し、企業がこれまで内部で隠蔽してきた偽装を隠し通せない状況になってきました。

このように、
「モノ」
に関わる企業にとっては、その姿勢が厳しく問われる時代になってきたといえます。

イ ニッポンのお家芸「モノ作り」の質的変化

ところで、
「モノ」
に関する企業活動は、質的な面で急激に変化しています。

「モノづくりは日本産業のお家芸」
との言葉に代表されるように、これまでの日本企業は、使い勝手がよく、安全・高品質で、値頃感のある
「モノ」
を作り出すことを得意としていました。

そして、日本企業は、
「高度な製造活動のためのインフラである、高い技術力と生産設備操業能力、さらにはこれを担う優秀な人材」
を自ら保持し、育成してきました。

ところが、
「モノづくり」
を得意とした日本企業も、ビジネスの進化に伴い、下請やOEM生産等によるファブレス(工場設備を持たない製造業)化や生産拠点の海外移転等を積極的に行うようになってきました。

このようにして、近年、日本企業において
「モノづくり」
の意味が加速度的に希薄化するようになってきたのです。

ウ 「モノ作り」の質的変化に伴うリスク

以上のような
「モノ」
との関わりの希薄化は、品質面、安全面、規格ないし法令遵守面における企業の管理が行き届かなくなる危険が増幅してきたことも意味します。

例えば、日本国内での工場操業においてはコンプライアンスや製品の品質や安全性に対するこだわりが浸透していても、日本企業が生産を海外に委託する場合における現地委託先企業がそのような観念を欠落している場合、日本企業は大きなリスクを抱えることになります。

少し前に発生した中国産食品における毒物混入事件は、
「モノ」
との関わりが希薄化した企業において、上記のようなリスクが現実化した現象といえます。

エ モノ作りの管理に失敗した場合のリスク

輸送機器、建物、食品、薬品、電気製品等、企業から製造される
「モノ」
は何らかの形で消費者や社会に関ってきます。

したがって、消費者や社会は企業が製造する
「モノ」
の品質や安全性に大きな興味と関心を抱きます。

万が一、
「モノ」作り
において、現場管理や委託先管理に失敗し、品質や安全性において問題のある
「モノ」
を流通させた場合、大きな社会問題に発展し、企業に対して回復不可能な損害をもたらすことになります。

「法令遵守より効率優先」
という経営姿勢や製造管理状況に対して消費者や社会一般の厳しい目が向けられるようになっていますし、この種のトラブルは、企業の生命を即座に奪いかねません。

実際、某焼肉店が、O157菌が混入したユッケを提供して死者を出し、その結果、会社が破綻し、また、ユッケ提供そのものを禁止するといった社会情勢をもたらしました。このように、
「モノ」作り
の管理の失敗は、企業へのリスクやトラブルの大きさとしてもさることながら、社会全体に関わる影響をもたらします。

「モノ」
と企業との関わりは歴史的に古く、調達・製造活動は成熟した経営課題といえますが、海外生産委託の動き等の急激な変化もふまえて、日本企業は、今一度、調達・製造に関するマネジメントのあり方を見直す必要に迫られています。

では、企業としては、実際、どのようにモノ作りのマネジメント体制を構築していくべきなのでしょうか。

次回は、
「具体的な仕事として、製造現場や委託先の管理をどのように遂行していくか」
という点についてお話して参ります。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.063、「ポリスマガジン」誌、2012年11月号(2012年10月20日発売)