00196_昭和の営業_20150320

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」
は、最終テーマ、
「営業」
に入ってまいります。

「ヒト」
「モノ」
「カネ」
「情報・技術・ノウハウ」
といった各経営資源を調達・運用した企業は、企業内部に
「商品在庫や役務提供のための設備・人員等」
という形で付加価値(未実現収益)を蓄積していきます。

次に、企業は、営業・販売活動によって、これら付加価値(未実現収益)を収益として実現していくことになります。

商品をカネに変質させることを、一般用語では、
「営業」
といいます。

すなわち、どんなに立派で高機能の商品でも、売れるべき期間売れずに長く売れない状態が続けば、不良在庫として、事業活動上も税務上も邪魔なものとして企業に害を与え続け、それでも売れなければ、陳腐化・品質低下し、ただの廃棄物(ゴミ)となります。

サービス提供施設も同様です。

バブル期前後にできたテーマパークの中には、客が来ないし、ショバ代(固定資産税)は取られるわ、邪魔だわ、不気味だわ、と社会的には有害物であり、壮大なオバケ屋敷兼ゴミ屋敷となってしまうものもありました。

ゴミなら捨てればいいのですが、最近では、うっかり廃棄物の捨て方を間違うと、産業廃棄物処理法違反で書類送検される世の中です。

このように、企業にとって、営業活動は、もっとも重要かつ意義ある活動として考えられます。

なお、営業活動の成果として、商品がカネに変わり、この
「カネ」
が経営資源となって、ヒトやモノやチエを生み出す原資になり、最後は、また商品となり、カネに変わり、というサイクルを繰り返す。

これを、小難しい言葉で
「営業循環」
などと表現したりします。

このような循環を繰り返す中で、企業は拡大再生産を繰り返し、企業価値を高めていくのです。

いずれにせよ、企業にとっては営業活動がもっとも重要です。

顧客を発見し、顧客の
「欲求、現実、価値」
を理解し、特定し、これに適合する形で、自社の商品やサービスを提供していく。

アホではできない高度に知的なチャレンジです。

実際、企業においては、デキる人間ほど営業に回されます。

よく、テレビドラマ等では、営業マンというと、できないサラリーマンの典型例のように扱われますが、実際の企業社会においては、営業部隊がもっとも発言権をもっており、事業会社の社長は、営業のトップが就任する例がほとんどです。

ただ、営業のあり方も、日本の社会構造や産業界の変化に伴い、大きく変質していることも事実であり、そういう状況も踏まえないと、仕事をうまく進めることはできません。

では、以下、
「営業」
という仕事のお作法について、特に時代の変化をふまえながら、現代における営業活動の基本を、私なりに解説してまいりたいと思います。

(1)昭和の営業=気合、根性だけで営業が何とかなった時代

最近では、中東における緊張状態が連日報道されていますし、ウクライナにおける代理戦争のようなロシアとEUとの暗闘状態が垣間見えたりしますが、今から、30年から40年ほど前までは、米ソが、世界を舞台にして、一触即発のガチの睨み合いの真っ最中でした。

本格的な殴り合いはないものの、今にも殴り合いがはじまりそうな、みていてハラハラするようなガンの飛ばし合いを、
「冷戦」
などと言っていました。

このように世界が緊張状態のまっただ中にある中、アジアにおける西側世界の
「代貸し」
ないし
「若頭」
的地位にあった日本は、アメリカという
「組長」
の庇護の下、
「フツーのものをフツーの値段でフツーに作れる」
という稀有な工業国家として、
「世界の工場」
の地位を築き上げました。

経済はインフレーション傾向にあり、作っても作ってもモノが不足し、作ればすべてモノが売れる時代でした。

現在のように、マーケティングだの営業戦略だの細かいことをグダグダ考えなくても、気合を入れれば、なんとか需要家がみつかり、あとは押しの一手で在庫を持ってもらうことができる、そんな時代でした。

そういう時代においては、能書きたれるよりも行動こそが重要で、まさしく営業は気合であり、根性だったのです。

この時代、売上とは、
「営業マンの数×1人当たり売上」
で計算されました。

いかに多くの営業マンを採用するか、そして、いかに営業マンを働かせるか、が重要だったのです。

しかし、1989年、ベルリンの壁が崩壊し、冷戦が終了し、世界市場が単一化し、供給が過剰になりはじめました。

そして、東欧諸国や南米や中国が競争に参入し、圧倒的な価格競争力で
「世界の工場」
という地位を日本から奪取しにかかります。

加えて、日本国内においては社会が成熟し、デフレ・低成長時代になり、モノ余りが顕著になっていきました。

今回は、このあたりで一旦お話を終えますが、次回は、時代の変化とともに、営業が
「気合」
「根性」
からサイエンスに基づき合理的に行われるようになり、これについていけない会社が憂き目をみるようになった、というお話を含め、現代産業社会における
「営業」
というお仕事の本質について解説して参りたいと思います。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.091、「ポリスマガジン」誌、2015年3月号(2015年2月20日発売)