00173_モノのマネジメント(9)_20130420

連載シリーズ
「仕事のお作法」

「お仕事・各論編」、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
についてお話しており、
「製造現場や委託先の管理をどのように遂行していくか」
というパートのお話をさせていただいております。

4 モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)に関わるお仕事の作法

(4)現場や製造委託先との関係構築について ~続

前回同様、賞味期限改竄事故を乗り越え、再生に成功したある和菓子製造メーカーが構築した
「性悪説及びリスク・アプローチを徹底した事故予防マネジメント」
のモデルを具体的に解説して参りたいと思います。(承前)

第4 トップマネジメントによる不祥事情報の早期把握
1 指揮命令系統の整備
 品質保証部、廃棄管理部、お客様相談室、生産管理部、コンプライアンス部、内部監査室等、事件・事故、あるいはこれらの萌芽の探知につながる部門は、社長室直轄の部門とする。
2 不祥事情報の早期把握
 改善提案箱を設置するとともに、公益通報者保護法に準拠した内部通報システムを設け、通報先を外部弁護士に委託する。

コンプライアンスを貫徹する上では、不正を未然に防止する体制を整備するだけでなく、現場で実際に発生してしまっている不正を、経営陣が迅速且つ正確に把握することができるための体制を構築することも必要となります。

特に、性悪説的な考え方(リスクアプローチ)によれば、現場では、徹頭徹尾操業効率が優先され、そのためコンプライアンス上の非違事項は隠蔽される可能性が蔓延している、という見方になります。

したがって、現場において問題となるべき事件やその萌芽が現場の従業員によって現認されたとしても、これを指摘する声が上層部に届く前に握りつぶされてしまう危険が存在する、ということが言えます。

このようなコンプライアンス上のニーズに対応するため、2006年4月1日、公益通報者保護法が施行され、
「不正を現認した従業員等が企業内の不正を報告しやすい体制を整備すること」
が推奨されるようになりました。

公益通報者保護法に基づき、企業は、内部通報窓口を設置することにより(場合によっては弁護士事務所等の第三者を内部通報窓口として指定し)、現場の不正を迅速に把握することが可能となります。

また、
「内部通報を行ったこと等を理由として従業員を解雇あるいは不利益な措置を取ることを禁止することで、従業員は現場の不正を躊躇することなく迅速に通報することが可能となる」、
というのもこの法律の基本的仕組の1つです。

この和菓子製造メーカーでは、指揮命令系統を社長室直轄とし、さらに、内部通報システムを設計する際の通報先を外部の弁護士に委託する形で
「不祥事握りつぶし」
の可能性を徹底して排除している点は、高く評価できます。

第5 全社的コンプライアンスの徹底
1 教育・研修の実施
 品質表示(JAS法等)、品質管理(食品衛生法)いずれの法令も専門家より教授。法務部への照会も推奨。
2 日常業務の総点検
 法令の確認と日常業務の総点検を実施。点検終了にあたっては法務部の確認を求める。
3 コンプライアンス・ツール
 コンプライアンス・マニュアル(衛生管理マニュアル、購買マニュアル、配送マニュアル、店舗運営マニュアル、生産管理マニュアル、廃棄品処理管理マニュアル)の策定を行ない、仕上がりについて外部弁護士にチェックを依頼。

これまでみてきたコンプライアンス・プログラムですが、どんなに素晴らしい法令遵守や規則順守の仕組があっても、従業員に浸透させないと、プログラムは十全に機能しません。

この和菓子製造メーカーでは、教育研修を実施するだけでなく、フォローアップの仕組みとして法務部の照会も推奨し、教育成果の浸透を徹底させています。

また、各種マニュアル類についても、作成する内部担当者の感覚を一切信頼せず(性悪説)、外部チェックを前提としている点も評価できます。

さらに、想定されている仕組(デジュリ)と現場の状況(デファクト)の差分検証を法務部監査により総点検していることも評価できます。

以上、賞味期限改竄事故を乗り越え、再生に成功したある和菓子製造メーカーの、性悪説及びリスク・アプローチを徹底した事故予防マネジメントのモデルをみて参りました。

これで、
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
の自社内の現場管理のパートは終えます。

次回は、やはり
「モノのマネジメント(製造・調達マネジメント)」
について外部の製造委託先管理の問題を解説したいと思います。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.068、「ポリスマガジン」誌、2013年4月号(2013年3月20日発売)