00096_苛酷な社会を生き抜くための「正しい非常識」24_(10)「働くこと」「仕事をすること」の意味と本質を理解しましょう_20200420

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本コンテンツシリーズにおいては、個人で商売する方や、資産家や投資家や企業のオーナー経営者の方、出世して成功しようという意欲に燃える若い方、言い換えれば、「お金持ちや小金持ち、あるいはこれを目指す野心家の方々」へのリテラシー啓蒙として、「ビジネス弁護士として、無駄に四半世紀ほど、カネや欲にまつわるエゴの衝突の最前線を歩んできた、認知度も好感度もイマイチの、畑中鐵丸」の矮小にして独善的な知識と経験に基づく、処世のための「正しい非常識」をいくつか記しておたいと思います。
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「働く」
「仕事をする」
ということは、誰かをクライアントとして、サービスや能力を提供することです。

その際、サービス・スペックや展開能力水準を、
「自分の保有値」
ではなく、
「マーケットの水準」
に合わせるようにしなければなりません。

こんな話があります。

ある法律事務所に、意気軒昂といった趣の、新人弁護士が入ってきました。

立派な大学を出て、立派なロースクールを出て(※予備試験には合格しなかったようです)、若く、情熱的で、やる気に満ち、一流の弁護士を目指し、どんな苦難にも耐える、というようなことを言っていたそうです。

所長弁護士が、新人弁護士氏に、ある事件を担当させ、準備書面(裁判所に提出する書面)を書かしたところ、過酷な想定がされておらず、突っ込みどころ満載でしたので、
「相手方の攻撃に備えて、言質を取られないように、表現を再考せよ」
と事細かに、かつ丁寧に、何度も起案に赤字を入れて指導しました。

所長弁護士の指導に対して、新人弁護士氏は、
「先生、細かすぎます。相手がそんな嫌らしいところを突っ込んでくるはずはない。そんなところまで考えてやっていると、時間がかかってしょうがないし、負荷がかかる」
と相当な抵抗しました。

しかし、所長弁護士は、
「我々弁護士は、クライアントに対して善管注意義務はもちろん、倫理としても、全身全霊を以て全力を尽くすことが求められているわけだし、第一、手抜きをするのは、私の流儀ではない。それに、疎漏が判明していてこれを放置するのも寝覚めが悪い。お願いだから、指摘されたところはきっちり直してください」
となだめすかしつつ、最後は半ばお願いしつつ、懇切丁寧に教え諭しました。

新人弁護士氏は、ブツブツ言っていたものの、しぶしぶアップグレードに応じました。

結果は、想定していた攻撃はすべて現実のものとなり、所長弁護士の指導箇所が奏功し、事無きを得ました。

所長弁護士は、新人弁護士氏が、的確な指導に感謝をし、今回、発見・特定・処理できなかった課題の対処法を学んだことから、今後、成長のための自助努力を重ねることを決意してくれるだろう、と思っていました。

ところが、案に相違して、新人弁護士氏は、「こんなに細かいところまで毎回フォローするなんて無理です。毎回、毎回こんなことを要求されても困ります」と目に涙を浮かび始めました。

困った所長弁護士は、新人弁護士氏にやさしく応じます。

「わかった、わかった。それなら、相手の弁護士や裁判所のところに行って、『私は一年目の、何もわからない、経験のない、やる気もない弁護士なので、私の能力ややる気に併せて、私でもそれなりに結果が出せるよう、手加減してください。』と、丁寧に頼んで来たらどうかな?渡る世間は鬼ばかりじゃないよ。きっと、君の真摯な想いが通じて、相手方弁護士も、『わかった。君の能力に合わせて、手加減してあげよう』というやさしく対応してくれるだろう。裁判所も『多少のことは目をつぶって、勝たせてあげよう』と言ってくれるかもしれない」
と提案しました。

そうしたら、今度は、新人弁護士氏は、顔を真っ赤にして怒りの涙を浮かべはじめました。

所長弁護士は、ジェントルに、エレガントに、真摯に、新人弁護士氏のためを思って、「どうやれば新人弁護士氏の思う通りの結果が出るか」を考えて提案したのですが、指導したこと以上に、何か怒らせてしまったようです。

真実は、人を傷つけます。

真実が正確であればあるほど、真実を聞いた方が傷つきます。

悪いのは、新人弁護士氏ではありません。

また、ウソをつかず、真実を正確に、正直に、伝えた所長弁護士も悪くありません。

おそらく、悪いのは、
「新人弁護士氏が、何もわからない、経験のない、細かい指導に対応するだけの忍耐力にも乏しい弁護士であるにもかかわらず、相手の弁護士が、新人弁護士氏にあわせて手加減してくれない。それどころか、新人弁護士氏が少しでも隙(すき)をみせれば、敏捷な猛禽類のように襲いかかってくる」という真実の方
なんでしょう。

新人弁護士氏は、その後すぐに事務所を辞めたようです。

新人弁護士氏にも、所長弁護士にも問題がなかったのでしょうが、「何もわからない、経験のない、細かい指導に対応するだけの忍耐力にも乏しい弁護士」に手加減してくれない、やさしくない、相手方弁護士やリーガルサービスマーケットや裁判所という戦場の方が悪かったのでしょう。

「マーケットがタフすぎる。戦場が厳しすぎる。ダメな自分の能力にあわせて、ダメな自分でも勝てる、もっとラクな環境にしてくれ」という要求は、残念ながら通りません。

そういうことを要求する者の方が、マーケットや戦場から退場するほかありません。

オーナー企業に勤務する役職員にとってのマーケット(顧客・市場)は、オーナー社長です。

皆さんは、「オーナー社長の知性・経験・思考・完成度合いを要求水準とする『市場』」において、オーナー社長をクライアントとして、サービスを提供している事業者である株式会社なのです。

オーナー企業においてはオーナー社長の頭脳と感性を代替することが、皆さんの仕事です。

ちなみに、創業をしたオーナー社長は、皆、努力家で、勉強や考えることが大好きで、四六時中最適化のための検証やアングルチェンジを怠らず、ときに、ゲーム条件だけでなく、ゴールすら変えてしまいます。うまくいかないときにも、回避策の4つや5つ、すぐひねり出します。

そういうオーナー社長の足を引っ張らず、給料以上のパフォーマンスを出して、役に立たなければならない。

オーナー企業に勤務する方は、そういうタフなマーケットに挑戦している、という自覚と恐怖心をもち、正しくマーケットに奉仕してください。

「マーケットやスポンサーに背を向けたら、生きていけない。礼儀知らずは、路頭に迷って野たれ死ぬ」

これは、世の中で最も重要な真実の一つです。

著:畑中鐵丸

初出:『筆鋒鋭利』No.152-2、「ポリスマガジン」誌、2020年4月号(2020年3月20日発売)

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